腰 痛(人類がニ足歩行という、他の動物に類例のない、
地球上の「引力」に垂直に立った時から・・・)
「腰痛」と一口に言っても、腰痛を起こしている部位はさまざまですし、痛みの発生源は一つとは限っていません。幾つかの原因が重複している場合も多々あります。
「脊椎外科用語辞典」では、「運動時や、安静時に腰部に痛みを感じる疾患の総称」と定義されてはいるものの、腰部とはどこからどこまでを指すのか、民族や、身長の差や、男女老幼などでは違いがあります。
現代社会において考えますと、「肥満」(食べ過ぎ)「運動不足」「体力低下」。これは、交通機関の発達やコンピューター機器の普及、「省エネ」と称する労働力を機械化する方向などの普及により、人は昔のように働かなくなり、早寝早起きをしなくなりました。物資が豊富になりホームレスでも「糖尿病」「痛風」になるというぜいたくな時代。
直立歩行を獲得した人類は、他の動物に例を見ない「腰痛」という病気を引き起こしました。
直立歩行により獲得した「生活様式」が文化を極度に発達させ、それゆえ増加し続ける「腰痛」という人類発生の原点で発生した【原点】に立ち戻らなければならなくなくなってしまいました。
☆腰痛いろいろ
(1)椎間板性の腰痛
椎間板というのは軟骨で、体重を支える役割を果し、背骨の運動の時のクッションの役割を持ったものです。
@椎間板の変性
椎間板の中心部にゲル状の「髄核」があり、その周囲を「線維輪」と上下を軟骨終板が取り囲んでいます。
「髄核」は、若い時代にはゼラチン状態の内容物で、水分を多量に含んでいるのですが、年齢と共に水分量は除々に減少します。「髄核」の水分減少というのは、タイヤがパンクしたのと同じような現象になります。、椎間板が体重を支える機能を失って椎間板がぐらつき、線維輪の外側にある神経を刺激し、腰痛が発生すると考えられています。
A椎間板ヘルニア
これは、「髄核」が線維輪の裂け目から抜け出した状態です。椎間板のすぐそばにある神経根が「髄核」により刺激されたり、圧迫されたりすると「坐骨神経痛」が発生すると考えられています。
しかし、椎間板ヘルニアと「診断」されても、全く症状を伴わない場合もあります。これは、「個人的」要因が関与しています。
椎間板ヘルニアの特長は、咳やクシャミで誘発されことや、前屈姿勢で痛みが強くなる特長がありますが、症状を伴わない場合を考えますと「ヘルニア」が腰痛の原因とは決められない。
(2)椎間関節性腰痛
椎間板が老化し始めると椎間板の高さが低くなってきます。これにより椎間関節にかかる負担が増えてきます。腹筋が弱くなると、腰椎の反りが強くなり、更に負担が増え、その結果として変形し始め「腰痛」が出現すると考えられています。これらは、上体を後に反らす動作や左右にねじる動作で誘発される特長があります。
(3)筋肉性腰痛
これには、筋肉の疲労が原因の「痛み」、筋肉の血液供給が不充分の為、栄養不良により出現する「痛み」などがあります。
筋力は、筋肉の老化があり、運動不足などによっても弱くなっていきます。背骨を支える筋肉が衰えてくると、短時間の起立や歩行であっても、筋肉は容易に疲労し、その結果として「腰痛」が出現します。
(4)骨性の腰痛
「骨性」というのは、老化とかカルシウム不足などが原因で「骨」がもろくなるというものです。「骨粗ソ症」なそがそれに当たります。女性では閉経後に発生する事が多いと言われ、転んだり、しりもちをついたりして、「背骨」がつぶれると痛みが出現するようになります。「骨性腰痛」は、身体を動かすことにより痛みが誘発されます。
(5)外傷性腰痛
@ぎっくり腰
重いものを持ち上げた時などにおこる、いわゆる「腰椎捻挫」で身動き出来ない痛みですが、この場合多くは安静で治癒していきます。が、神経根圧迫や脱落症状を伴う時は「椎間板ヘルニア」「変形性脊椎症」が考えられます。又「ぎっくり腰」の中には、悪性腫瘍の転移や副甲状腺機能亢進症による「骨軟化」などもあるので、経過を注意しなければなりません。
ひとまとめに「ぎっくり腰」と表現されがちですが、背中の筋肉の肉離れ、椎間関節の捻挫、椎間板の線維輪の断烈などいろんな原因が考えられます。
医学の発達のおかげでMRI(磁気共鳴画像診断法)が開発され、容易に診断がつけられるようになりました。が逆に言えば、その為に軽い症状であっても「手術」をすすめられるケースが増加しています(椎間板ヘルニアの場合)
A脊椎分離症
脊椎分離症は上関節突起と下関節突起の間での疲労骨折で、激しいスポーツの経験者に多く認められています。しかし、注意しなければならないのは、脊椎分離のある人がすべて「痛み」があるというわけではありません。
(6)姿勢性腰痛
@腰曲がり
骨粗ソ症が進行して、多数の背骨がつぶれると腰が曲がります。これを「円背」と言っています。背中を伸ばす筋肉が常に引っ張られている為「疲労性腰痛」や「粗血性腰痛」などが起り、腰を後に反らせますと背中の筋肉にかかる引っ張る力が減って、筋血流量が改善し、腰痛が軽くなったり、痛みが焼失するという特長があります。
A彎曲異常
椎間板が変性して、椎間板の高さが低くなったり、椎体の骨がつぶれたりすると「腰椎」の反りが失われてきます。又「変形性股関節症」により、股関節の動きが制限されたり、左右で足の長さが異なる事が原因で「腰椎」に彎曲異常が出現します。「腰椎」の異常は、腰痛が慢性化する大きな原因の一つとされています。
(7)ニ本の足で起立姿勢をとったから
人間が起立して二本足で歩くようになったのは、大体五百万年位前というう説が有力のようです。これは、他の動物と比べて特徴的なものであり、脊椎骨、椎間板、椎間関節、靭帯、筋は「起立姿勢」の保持や滑らかな変換を可能とする為の都合の良い形態となっているわけです。人が重力のはたらく地球の上で生きる限りは、人の本質的な姿勢、動作にかかわる「腰痛」は運命的なものとされています。
地球上の生物は皆、横性といって「頭」が地球の表面に平行し四肢で歩いています。それが、起立する事により「脊椎」を垂直に立ててその上に「頭」を乗せています。
その為、人は二本の足だけで歩く事が出来るようになり、両方の手は「自由」を得、数百万年の間に「人間の文化」を創り上げてきました。
直立、ニ足歩行。これを可能にした人類は又、厄介な「腰痛」をも持ち込んでしまいました。
腰椎の構成体の組織には、外部からの直接的、関節的に加えられる「重み」「引っ張り」「捻り」など様々な機械的刺激に反応する為のセンサーが備えられており、「痛み」という警告信号を脊髄や脳に送って自らを守っている。それが「腰」で耐えきれなくなったとき、「腰痛」がおこります。
(8)同じ姿勢を長く続ける人
長時間、座り続ける人に「腰痛」は多く見られるようです。又、殆ど一日中立って話をしている講師。重い荷物を持ち運ぶ人など。
(9)姿勢のよくない人
機械化により、「腰」に負担がかかる労働は極めて少なくなっているし、家事も省エネや、電器製品の普及により、とても楽になってきています。が「腰痛」はむしろ急速に増加してきています。それは?
労働しないで済む。たとえば交通機関の発達、エレベーター、エスカレーターの完備、殆どの人が歩かなくてもよいという環境にある為、何時の間にか「足腰」の筋肉が弱くなってしまった事があげられます。食べ過ぎ、運動不足でお腹を前に突き出している人や、逆に「猫背」の人など。
最近は減少してきたように思われますが、「厚底」の靴をはいた女の子。重心が前のほうにずれて、バランスを悪くし、それに「素足(なまあし)」で冷やしては、流行とはいえ「腰」の為には良いとは考えにくいです。
(10)運動不足も一因か
「肥満」ということは、それだけ体重が重くなる分「腰」にかかる負担は大きくなるはずです。
「肥満」のひとは、お腹を突き出して、上半身をそらした姿勢をとりがちですが、これは、「腰」に重心がかかるので、「腰痛」になりやすいわけです。
運動不足も、体重を支える筋力が低下し、腰への負担が大きくなり「腰痛」を起こしやすくなります。
もともと、腰は自然の「ソリ」があるのですが、そのソリが大きすぎると負担が増して腰痛の原因となります。
椅子に座ることにより、腰にはかなり負担がかかります。高過ぎるイス、低過ぎるイス、柔か過ぎるクッション、車の座席なども腰の曲がりが不自然になり「疲労」し易いといわれています。
これらは明らかに「運動不足」が原因であると考えられています。
(11)腰痛の原因は一つとは限らない
一口に「腰痛」といっても、いくつかの原因が重複している場合も少ない為に、「腰痛」をうまく説明する理論はまだ確立していないというのが実情です。腰部とはどこか?痛みとは、どの程度のものをさすか?人の訴えにより様々です。
鼠径部や臀部、大腿部の痛みを「腰椎由来の関連痛」とし、神経根の分布領域に発生する下肢の痛みでも分類しています。
「痛み」、それを訴える患者さんに共通していることは、どこにも、原因の見当たらない腰痛というのも存在しており、ここに「痛み」のむつかしさがあります。
(12)腰椎強度前彎について
腰椎の強度の前彎というものには、先天的なものと後天的なものとありますが、ここでは後天的なものとして説明してみましょう。本来姿勢というものは、体幹、四肢の相互位置を反射的に調整し、体重に対して体の対応によりバランスを保持する身構えです。
腰椎前彎発生は、原因としては腹筋、背筋などの弱まり、病的には「虚弱児」「ポリオ」「進行性筋ジストロフイー症」などにみられます。その他に骨盤の傾斜。股関節の屈曲拘縮が考えられます。
(13)婦人科領域における腰痛
@子宮の位置の異常
中高年女性に見られる子宮の位置の異常による「腰痛」は、子宮下垂、子宮脱があげられています。この場合は、外陰部腫瘍や排尿障害が多いようですが、下腹部の鈍痛とか腰痛が起った場合、「水腎症」の為(尿路通過障害があれば)腰痛を引き起こすことがあります。
A子宮腫瘍
子宮筋腫は、筋腫自体が痛みの原因となることはないと思われますが、靭帯内筋腫であるとか頚部筋腫など、周囲の神経や尿管を圧迫し、しばしば「腰痛」となる場合があります。又、「子宮ガン」ですと、初期には「腰痛」などの疼痛はありませんが、進行すると、腫瘍が周囲組織に広がり、その為神経を直接刺激するので「腰痛」となることがあります。
B子宮付属器の異常
子宮付属器といいますのは「卵巣」や「卵管」があります。卵巣腫瘍は大きくなりますと、周囲の神経や尿管を圧迫することから腹痛とともに「腰痛」となる場合があります。
又、腫瘍がねじれたり破裂したりしますと、急激な腹痛や腰痛をきたすことがあり、卵巣ガンなどは進行するに従って子宮、卵管、直腸、尿管などが直接におかされて、それに伴う尿路の通過障害による水腎症や骨への転移によって腰痛を来たすことがあります。
C子宮支持組織の異常
内部の生殖器も炎症を起こすと、時に鈍痛的な「腰痛」をきたします。
D更年期障害の主訴として「腰痛」は最も多いもののひとつであり。これらから自律神経失調症に基ずく不定愁訴に関連した「腰痛」があります
慢性化した「腰痛」の中には、投薬、牽引療法、コルセットの着用、手術、鍼、灸、マッサージ、ホット・パック、温熱療法とさまざまな治療が試みられても改善しない難治な腰痛があって、病院に行くと「心因性腰痛」とか「心身症」などと「心の病」として扱われているものがあります。
腰痛の治療方法